ソウルを東西に流れる漢江(ハンガン)の北・江北(カンブク)地域。その中心地で古の時代から栄えている街といえば、ソウルを旅した人なら一度や二度は訪れたことがある鐘路(チョンノ)。
そんな鐘路ですが近年、世界からも注目を集めるエリアとして再び脚光を浴びています。イギリスの雑誌『Time Out』では今年10月 『世界で最もクールな街49(The 49 coolest neighbourhoods in the world)』という記事を掲載、鐘路3街を49ある世界の魅力ある街の三番目として取り上げ、詳しく紹介しました。
世界が注目し様々な世代が集まる鐘路。ここ鐘路の魅力の秘密は一体何なんでしょうか。韓国の過去と現在、昔を懐かしむ世代と若い世代、レトロさと洗練された美しさが共存するソウルの中心・鐘路の中でも、今回は鐘路3街にスポットを当て、鐘路の隠れた魅力をご紹介したいと思います。
ソウル特別市鐘路区礼智洞(イェジドン)にある広蔵市場は韓国の人々の活気あふれる日常の風景が感じられるところ。
広蔵市場はおよそ100年前、韓国初の常設市場として誕生した市場で、韓服の生地やカーテン、寝具類など織物製品の卸売・小売店舗が軒を連ねる市場です。
近年では小さなキムパプ・コマキムパプや緑豆で作ったお焼き・ピンデトク、ユッケなどグルメで一躍有名になりました。市場中に漂うおいしそうな匂いに誘われ歩いていると、いつしか目の前には屋台が現れるはずです。
広蔵市場に足を踏み入れると、あちらこちらにユッケのお店があるのに気づきます。広蔵市場でユッケを味わおうという方には、ユッケにぶつ切りのナクチ・テナガダコの刺身が添えられたユッケナクチタンタンイがおすすめ。生の牛肉のたたき・ユッケの味わいに弾力あるテナガダコの食感が相まって、大変美味なユッケナクチタンタンイ。生きたままのテナガダコを「タンタン!」と音と立てて刻む、そんな様子もタンタンイという名前から思い浮かびます。
英『Time Out』誌で広蔵市場のおすすめグルメとして紹介されたのがこのミニキムパプ『コマキムパプ』。からしソースをつけて食べるコマキムパプは、やみつきになる味わいで、別名『麻薬キムパプ』とも呼ばれています。
この他にもサツマイモのでんぷんで作った麺・タンミョンに千切りの肉や様々な野菜を入れて炒めた『チャプチェ』もおすすめ。下ごしらえが面倒なだけあって韓国の家庭では特別な日によく料理するチャプチェですが、ここ広蔵市場では手ごろな料金でいつでも気軽に味わうことができます。
広蔵市場のおすすめグルメはこれだけではありません。緑豆で作ったピンデトクや日本でもメジャーになったホットクもイチオシです。
中に様々なナッツ類や蜜が入ったホットクはアツアツで冬のおやつに最高です。
また緑豆を挽いた作った生地にもやし、豚肉などを加え焼き上げるピンデトクは空腹を満たすおやつに、そしてマッコリとともに酒の肴として有名なグルメ。特にピンデトクは『ピンデトク紳士』という懐かしの韓国歌謡にも歌われるほど昔から庶民に馴染みの料理で、広蔵市場で一番人気のグルメです。
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広蔵市場で腹ごしらえをしたら、本格的に鐘路の隠れた魅力を探しに出かけましょう。
まずご紹介するのは世界文化遺産・宗廟の西側の塀伝いに続く道・西巡邏(ソスルラ)キル。
この西巡邏キルはこじんまりとした物静かな雰囲気が人気を呼び、今では散策コースとして人気急上昇の場所。
塀の向こう、宗廟の境内側には大きな古木があり、夏には緑の葉が生い茂り西巡邏キルの方へ格好の日陰を作り、そして秋には美しい紅葉の風景となるなど、一年を通じて西巡邏キルに彩りを与えています。
周囲の風景を楽しみながら西巡邏キルを歩んでいくと、通りの中ほど辺りに伝統工房やジュエリーのセレクトショップ、カフェやパブなど様々なお店が軒を連ねているのが見えてきます。個性豊かなお店がいっぱいなので、ちょっと覗いて気に入ったところで一息つくのもいいかもしれません。
K-ゾンビ旋風を巻き起こしたNetflixドラマ『キングダム』。そのドラマの中で小道具として使われた、現在の身分証のような役割を果たした号牌(ホペ)やかんざしが作られたのは、実はこの西巡邏キル沿いにある伝統工芸工房だったということをご存じでしょうか。ここ西巡邏キルはK-工芸通りと呼ばれるほど工芸工房が数多くあることで有名な場所です。
中でもジュエリー工芸作品を気軽に購入できるおすすめの場所が、ソウルジュエリー支援センター第2館『スペース42』。このスペース42は韓国の新進ジュエリーデザイナーらのさまざまな作品が展示・販売されている複合文化スペースで、1階にはジュエリーセレクトショップ、2階には休息スペースと訪問客自らジュエリーを制作できるコーナーもあります。
西巡邏キルを散策し、ちょっと疲れたらお休みタイム。コーヒーやドリンクで憩いのひとときをお過ごしになりたい方には『CAFÉ SASA』、クラフトビールでのどの渇きを潤したい方には『SEOUL GYPSY』がおすすめです。
韓国の伝統建築・韓屋(ハノク)様式のCAFÉ SASAは、『Time Out』誌の記事の中の「完璧な一日」のコースの中のひとつに取り上げられ、特に 「ヨモギラテ」がおすすめと紹介しています。
また1950年代の韓屋をリモデリングし、独特な雰囲気を醸し出すSEOUL GYPSYでは挑戦的で実験的なクラフトビールのほか、ベトナム式チキンやタイ式サラダなど異国情緒あふれる各国の料理も味わえます。
西巡邏キル最後の訪問先は韓国の伝統文化に触れてみましょう。
伝統韓屋様式と現代的な室内インテリアが融合したスペース『韓国セクトン博物館』は韓国伝統の衣服文化を垣間見ることができるところ。
「セクトン」とは陰陽五行思想を基にした韓国伝統の原色鮮やかな色彩の縞模様のそで地のことで、韓国セクトン博物館ではこのセクトンを使った伝統婚礼服や満1歳の誕生日のときに子供に着せるトルボクなどを展示しています。またミュージアムショップではマグカップ、パウチなどセクトンを現代的にアレンジした様々なグッズも販売しています。
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鐘路といえば忘れてはならないのが様々なグルメ。焼肉通り、屋台通りなど長年営業を続ける店が集まる通りから、新しさとレトロさが感じられるいわゆる「ニュートロ」ブームの波に乗って登場した益善洞(イクソンドン)のカフェ通りまで、老いも若きも世代を超えて人気のグルメ店が軒を連ねるうまいもん通りがここ鐘路にはたくさんあります。
鐘路3街駅6番出口そば、益善洞(イクソンドン)の南にある通称「焼肉通り(고기 골목)」にはサムギョプサル、カルメギサル(豚ハラミ)など主に豚の焼肉が食べられるお店が軒を連ねています。
長年営業を続ける老舗のお店であるほどその味わいに年季を感じる美味さを感じますが、 中でもサムギョプサルを大きな釜の蓋の上で焼いて食べる「トンテジチプ(통돼지 집)」がおすすめ。韓国の人々のソウルフードとも言うべきサムギョプサルは、いまでは世界の人々にも人気が高く、近年、オックスフォード英語辞典に掲載されたほど。アツアツの釜蓋の上でサムギョプサルとキムチをこんがりと焼き、サンチュやえごまの葉で包んで食べれば最高!さらに韓国の食文化を極めたい方には、締めに肉を焼いた釜蓋の上でキムチやチーズなどを加えてポックンパプ(焼き飯)をどうそ!
若者たちのホットプレイスとして有名な益善洞のカフェ通りではユニークなデザートを味わうことができます。その中のひとつ、韓屋カフェ『清水堂(チョンスダン)』では注文を受けてから焼き上げる温かなスフレカステラ、黒胡麻で作るケーキ、そして珈琲豆を石臼で挽くドリップコーヒーなどがあり、人気を呼んでいます。また、清水堂はフォトスポットとしても有名なカフェで、東洋の美しさが感じられる竹灯篭や店の玄関まで続く飛び石、自然を模して配置された石や苔が印象的な庭の造景もまた、このカフェならではの自慢です。
夜の帳が降りる頃、ソウル地下鉄1・3・5号線の乗換駅・鐘路3街駅の3番出口から楽器商店街として有名な楽園(ナグォン)商店街の方へ向かって歩いていくと、道沿いにはテントを張った屋台がずらりと並んでいる光景が見られます。そう、ここは鐘路名物の「屋台通り」。
温かなムール貝のスープ・ホンハプタン、鶏の足を甘辛ソースで炒めたタクパル、ヌタウナギの炒め物・コムジャンオクイ、パジョンなど、路上の屋台に置かれたテーブル席に座って韓国の屋台料理を思う存分味わうことができます。
屋台通りもまた焼肉通りとともに『Time Out』誌の記事の中で鐘路3街での「完璧な一日」のコースの締めに紹介されています。韓国の人々が楽しむアフター5を実感してみたい方はぜひ屋台通りでおいしい料理を囲みながら一杯いかがでしょうか。
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※上記の内容は2021年11月現在の情報です。今後変更されることがありますのでお出かけ前に必ずご確認ください。